以下は、ある方から伝え聞いた話だが、私が日々お伝えしている「心と体の関係」を如実に表しているため、ご紹介しておく。
患者はMさんという女性。
ある日、ストレッチをしていたら、股関節で変な音がしたという。
その後、右股関節・腰・大腿部の激痛に襲われた。
日に日に状態は悪化し、起き上がるのも寝るのもつらい。
ご主人がたまたま治療家であったため、あれこれと処置を施すが、どうにも手に負えない。
ついには、別の腕利き治療家の院へMさんをやることにしたという。
この腕利き治療家も、激痛に悶えるMさんを前に、苦戦をした模様で、患部を触れると痛がる。
首や背骨の歪みが強いということで、矯正を施し、一旦帰ってもらい数日後にまた来てもらうよう促した。
落ちたカードを拾う姿勢がスムーズになったのではという感覚があり、10→9.5くらいになったかもと言ってはいたのだが、布団に寝るのも痛くて一苦労。
治療の翌日、朝起きる時は激痛過ぎて動けない。
しかし、彼女は仕事に向かった。
当然、痛くてつらくてまともに仕事も出来ず、帰ってきたら痛くて悪化している状況。
さらに治療の翌々日の朝も激痛から始まった。
・・・だが、その日の仕事へ行くうちに、なにやら状態がマシになってきたという。
帰宅したら、7くらいになっているという。
さらにその翌朝、だいぶまし。6とか。
帰宅して2とか。
そして、治療の日。
痛みはほとんど無い状態で、治療も軽く調整をして終える。
翌日、ほぼ痛み無し。
・・・と、ここまで見ていると、
「さすが、凄腕の治療家だ」
と、思うだろう。治療家もそう思っている事だろう。
私が過去に習った整体でも、
「炎症が激しい際、患部に触れられない際、首を触って早く帰す。そしてまた来てもらう。やり過ぎて疲れさせたらロクなことはない」
と、よく言われたものだ。
首を中心に、時間をかけずに基本の型(中心軸や背中を触れる)にとどめ、回復力を引き出せる最低限の土台を作ってあげ、あとは体の回復を待つ。
落ち着いて来たら、残った細かいところや微調整をすればいい。
この治療家の方針も、手法は違えど、そういう方向性だろう。
ついつい、痛がるところを触りたくなるし、痛い状態で帰ってもらうことを患者も治療家も嫌うもの。
だが、そこは基本を忘れず、回復力を信じ、最低限の事だけをして、帰ってもらう勇気が必要だ。
結果として、激痛のMさんは、一週間ほどで復活できた。
・・・ただ、治療家の先生は、結局なぜ痛みが生じたのかについては触れなかったという。
「体が歪んでますね。首がカチカチです」
「筋肉の問題ではない」
「亜脱臼ぎみになっている可能性も」
と、して、主に骨格の矯正をしたというので、おそらくは構造・骨格の歪みを重視したのだろうが、
「なぜ、歪みが生じたのか」
という点についてはあまり深入りせず、問診もそこそこに体の検査や触診のみで治療を行ったようだ。
痛みが回復したのだからそれでよいと思えるが、これはいわゆる「準根本療法」の視点でしかない。
何故歪みが生じたのか、何故痛みが出たのか、そして、何故痛みが消えたのかは、もっと深い理由があるのだ。
■参照記事:「難病治療を可能にする逍遥堂の治療体系」
・・・実は触れていなかった別の側面がある。
Mさんが、
「ストレッチによって音が鳴り、そのあとに痛みが出た」
というのは、たしかにそうなのだろう。
ただ、その直後に痛みが出たわけではなく、精神的ショックがあったのちに急な痛みが出現したのだ。
音は、股関節周囲に疲労が募り筋緊張などが生じていたことを示しているが、それだけでは激痛にはならなかった。
精神的ショックが重なり、最後のひと押しとして負担が股関節にかかり、痛みが生じたとしたらどうだろう。
つまり、こういうはなしだ。
実は、Mさんの職場では人事異動があり、仲の良い頼りになる同僚が転勤となったらしい。
元々、高圧的な上司へのストレスで、多くの同僚が辞めていく状況下にあり、Mさんもストレスを散らしながら仕事をしていたのだが、同僚の移動により大きなショックを受けた様子で、その後、問題となった激痛が襲ってきたのだ。
なぜ、精神的ショックが関係していると言えるのかは、彼女の病歴にある。
実は、過去にも彼女は、精神的ショックにより謎の激痛を繰り返しているのだ。(凄腕治療家はそういった問診を一切していない。)
・祖母が死んだあと、右足首に激痛。腫れて水が溜まり、松葉づえ。
・父親が死んだあと、右膝に激痛。腫れて水が溜まり、松葉づえ。
そして、今回の痛み。
・同僚の移動のあと、右股関節に激痛。
今回は、ショックが死よりも小さいため、さらに敏腕治療家の処置に加え、早めに別の「ある処置」ができたために、回復は早かった。
放っておけば、もっと悪化していっただろうし、回復も長期化しただろう。
この「ある処置」こそが今回のテーマである。
実は、生活背景として、「Mさんの性格」と「夫婦間の関係」を紐解かなければ、この謎は解けない。
まず、Mさんは、幼いころから軽い精神的虐待を家族から受けてきたため、自身でも「少々の苦労では音を上げない我慢強さがある」と言っているほどに、ストレスや疲労を耐えしのぎため込んでしまう傾向にあるという。
そして、圧力の強い上司の下で数年にもわたる仕事をこなしてきた結果、近年はかなり疲労があって、ストレス食いによる甘い物やスナック菓子や乳製品などに走ることが増えていた。
加えて、夫の仕事がうまくいかなくて、それでもどうにか共稼ぎの状態で生活を送っているのだが、なかなか夫が「別口でも仕事をこなす」といいつつも職が見つからないという状況が続いていたらしい。
こうした状況下で、同僚の転勤がトリガーとなったのだが、私が解析するに、心身の負担は夫の仕事状況とも関連があるようだった。
というのも、上司へのストレスで辞める人が増えていた職場において、同僚の存在は緩衝地帯であり、負担軽減となっていた上に、「もし仕事を辞めれば、夫の稼ぎが当てにできない状況では生活ができない」と、やめるにやめれないジレンマがそこにはあった。
つまり、心身は痛みという形でブレーキをかけ、「環境を変えよ」とシグナルを出しているのだが、本人は痛みをどうにか紛らわせてでも仕事を続けないといけないと決め込んでいたのだ。
だから、さらに強い痛みが出るという悪循環。
夫はうすうすその背景に気づいていたが、それを知らせれば自身への圧がかかるのを恐れ伏せていた。
だが、痛みが激しくなるにつれ、ついには、「もう今の仕事を辞めていいよ、嫌なら。仕事はどうにかするし、生活も何とかする」と妻へ切り出したらしい。
ただ、Mさんも額面通りに受け取れず、腑には落ち切れていない様子。
その後、激痛の朝に、「○○の仕事に応募してみる」と具体的な言葉がけを夫がしたところ、その後すぐにMさんから痛みが消え出したというのだ。
心の重荷が軽くなり、「いつ辞めても辞めなくてもどちらでもいい」という心持になったことが、SOSの痛みを出す必要性を薄れさせたのだろう。
やがて、時間と共に、Mさんの痛みは減っていった。
「いや、治療家の治療で良くなったのでは?」
というのは、半分は正しく、半分は本質論ではない。
歪みを正すことは体の生命力発揮に役立つだろうが、大元の精神がダメであれば再び歪みか別のトラブルは生じるであろうし、回復しづらいであろう。
この問題の本質は精神であり生き様でもある。
生き様の部分に言葉というものを投げかけた時、Mさんの中でのこだわりが氷解したのだ。
結果、急速に痛みは消えていった。
・・・これが本当の流れである。
準根本療法が、根本改善へと本当に繋がるためには、生き様や精神や感情やトラウマなどの領域で変革が生じる必要がある。
それを示すいい一例であった。
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